2007年 02月 15日
ご存知のように、アメリカでは医者が処方してよい薬や医療機器はFDAによって規制されています。FDAが安全かつ有効であると認可した薬のみが市場に出てくるのです。
例えば、製薬会社Aが糖尿病の薬Xを開発したとします。 動物実験などでその可能性が示唆されたら、製薬会社AはFDAからINDと呼ばれる、人体実験(治験)をする許可を貰います。 無事INDが下りたら、AはまずPhaseIと呼ばれる、極少数の被験者(数十人)に対しての治験をします。目的はXの安全性を確認することです。Xを1mg投与したとき、5mg投与したとき、1週間後、1ヶ月後など、どのくらいの量まで安全か、などを調べます。 上手くいったら、次にPhaseIIと呼ばれる、より多数の人数(数百人)に対しての治験を行います。ここでは、Xの安全性を更に確認します。また、Xの有効性についても調査します。 上手くXの安全性および有効性が確認できたら、今度はPhaseIIIとよばれる、大規模(数千人)な治験をします。ここでは、最終的に薬を認可するにあたり、その安全性及び有効性を確実に捉えることを目的としています。無事にPhaseIIIをパスしたX飲みに対して、NDAと呼ばれる新薬としての認可がおり、AはXを市場に出してよいことになるのです。 当然、Xに認可が下りるのは、Xを糖尿病について使用することに対してです(上記の治験も糖尿病について行なわれています)。そのため、Aは、薬のラベル(説明書)には「糖尿病の薬として認可」と明記しなくてはなりません。 ところが、法律上、一旦市場に登場した薬は、その認可された理由がどうであれ、医者は自由に使って良いことになっています。上記の例でいうと、もともと「糖尿病に対して使用するから」ということで認可されてXでも、医者は他の目的(例えば癌の治療など)に使っても良いのです。このような薬の使い方をOff-Label Use (以下「OLU」)。 このOLUが、最近マスコミや議会の非難の的になっています。 そもそも、製薬会社は、認可された薬を、認可された使用方法以外の使うような宣伝をしてはいけません。例えば、Xの広告で、「癌にも効きます」とは、たとえ多少のエビデンスがあっても、言ってはいけないのです。犯罪になります。「Xは糖尿病の薬です」としか宣伝してはいけないのです。 ただ、医者が他の医者に対して、「Xは癌にも効くらしい」と宣伝するのには何の問題もありません。そこで、薬会社Aはこれを利用して、そういったXに好意的な医者たちを様々なイベントに招待し、Xについての宣伝をして貰う訳です。Aからすれば、Xの売り上げを伸ばすためには相当な効果があります。 問題は、近年、製薬会社は相当のお金をつぎ込む一方、最早、賄賂とまでいえるような、えげつないマーケティング作戦にまで出ているということです。いい加減なデータを盾に医者を説得し、その医者を使って更に多くの医者を見方につける、といったようなことはざらだそうです。 ただ、このOLU、悪い面ばかりではありません。実際問題、薬をFDAに認可された方法でのみしか使えなくなったら医療は崩壊します。というのは、現在、巷にある薬の50%がOLUとして処方されているからです。 これは、いくら医学が発展したとはいえ、まだまだ分らないことが多いからだと考えられます。つまり、大半の薬は、それなりのデータはあるけど、FDAの認可が下りるほど充分な臨床試験はしていない、というものなのです。臨床試験をしていないのも、「莫大なお金がかかる」「被験者が集まらない」など、いろいろな理由で「出来ない」ということが殆どです。「限られた知識やデータで、最高の医療を」となると、OLUは必要不可欠なのです。 とはいえ、今日もフロリダや南カリフォルニアといった暖かなところで、薬会社Aは学会を開いています。その学会では、Aから50万円貰っている大御所の医者が、眉唾なデータをもとに、糖尿病の薬Xを「癌に効きます」と発表してるわけです。それを聞いた若い医者が、明日、Xを使って癌患者を殺してしまうかもしれません。 Off-Label Use。難しい問題ですが、皆さんはどうお考えでしょう? ーか
by blogbyoin
| 2007-02-15 01:03
| 臨床
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