2006年 11月 16日
先週(11/9号)のNew England Journal of Medicineに、医学に於ける特許についての記事がありました。
http://content.nejm.org/cgi/content/extract/355/19/2036 ごく簡単にいうと、特許とは(1)新しく、(2)有用で、(3)安直でない、三拍子そろった発明に与えられる権利で、「他人に真似させない権利」です。 例えば、Dr中松は「頭がよくなる椅子」の特許を持っています。これは、今までそんな椅子がなかった(新しい)、実際に頭が良くなる(有用)、よくわからないけど、どうやら体内を電流らしきものが流れる(複雑)という理由で、特許が出たわけです。 特許が出た以上、他人はそれを真似することは出来ません(但し20年)。他人が「賢くなる椅子」などといった擬似製品を作ると特許違反で訴訟を起こされてしまいます。 伝統的には、特許は電球(エジソン)などの製品や、媚薬の調合方法といった、制作方法に与えられてきました。ところが、近年の著しいコンピューターの発展、目新しいビジネス・モデルの登場、凄まじい医学の進歩などのため、今まで予期し得なかった新しいものが続々登場してきました。それらの開発者や発明者は、当然それらを他人に真似されたくないので特許を申請する訳です。 最近では、コンピューター・ソフト(通常は著作権ですが)や、航空会社のハブ空港システムなどのビジネス・モデルにまで特許が与えられています。 医学も負けてはいません。その極めつけが、今回NEJMで問題にされていたメタボライトの特許です。 それはこんな特許です。 体内のビタミンB12(コバラミン)や葉酸のレベルが低下するといろいろな健康障害をきたします。ただ、これらのビタミンは血中濃度を測ることが出来ません。 そこで、ある研究者達は、ホモシスチンという物質の血中レベルが高いと、これらビタミンのレベルが低下している、ということを発見しました。このホモシスチンの血中濃度は、実は測定可能なので、彼らは、ホモシスチンの血中濃度を測ることでビタミンの血中濃度を想定するという検査を発明しました。 この発明のお陰で、医者は、ビタミンの値が測定不可でも、ホモシスチンの検査をオーダーし、それが高いと出たらビタミン剤を処方する、ということが出来るようになった訳です。 ところが、問題は、このホモシスチンが高い「イコール」ビタミンが低いという、この「イコール」の部分、つまり、この相関そのものに特許が与えられてしまったことです。 どういうことかというと、医者がホモシスチンの検査をオーダーし、「む、高い、ってことはビタミンが低いんだな」と判断し、ビタミン剤を処方したとすると、この判断自体が特許違反になってしまうのです。 ただ、現実的には医者それぞれ相手に無限の訴訟を起こすわけにはいきません。そこで、メタボライトは、ホモシスチンの検査キットを提供しているラブコートを、いわば、特許違反の共犯者的な立場で訴えたわけです。 NEJMで提起しているのは、「このような特許が果たしてアメリカの医療のためになっているのか?」という問題です。 確かに特許は研究者のモチベーションを高めます。アメリカがイノベーション国家として経済繁栄した理由であるとも言われています。ただ、実際には医療費などのコストを上げるのにも大きく寄与しています。 例えば、誰かが薬を錠剤にする特許を持っていたとします。すると、何百もある薬会社はみなこの人の特許のライセンスを買い、錠剤を作ることになります。そして、そのライセンス料を当然、最終的に薬の値段に繁栄させます。特許ライセンスが一つで済めば何でもありません。ただ、最近の薬はそんな単純ではありません。ライセンスが100以上も必要だと、最終的な薬の値段はべらぼうな値段になってしまいます。 つまり、特許は、イノベーションを養うけど、同時にコストも上げる、両刃ともいえます。アメリカがどんなに経済豊かになっても、医療費が高すぎて返って国民の負担になっているという見方もあります。 日本もこれからはイノベーションと大騒ぎしているので、同じように特許至上主義に走る可能性があります。 皆さんは、特許派ですか、それともアンチ特許派? か
by blogbyoin
| 2006-11-16 11:56
| 研究開発
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